父がまた運転した。そして私は、父の命より事故の方が怖かった
退院したばかりなのだから、しばらくは家でおとなしくしているだろう。
私はそう思っていました。
心臓の手術は無事に終わりました。
退院直後の父は家でゆっくり過ごしていました。
私は帰省中に、
「運転は今はしないで」
と伝えました。
父は否定も肯定もしませんでした。
私は母にも、
「運転しないよう話しておいたから」
と伝え、自宅へ戻りました。
ところが、そのわずか二日後でした。
父は母に黙って車で出かけていた
母から電話がありました。
父が車で出かけたというのです。
しかも母に黙って。
母の目を盗んで。
私は驚くというより、脱力しました。
やっぱりそうか。
そんな気持ちでした。
脳梗塞後遺症による視野狭窄。
心不全。
心臓手術直後。
白内障。
本人も、
「今の眼鏡は合わない」
と言っている。
それでも運転する。
私は改めて、父が見ている世界と、家族が見ている世界は全く違うのだと思いました。
母と現実的な話をした
父を責めても意味はありません。
私は母と今後のことを話しました。
どうしたら運転をやめてもらえるのか。
車の鍵はどうするのか。
医師から話してもらうのか。
免許更新をどう考えるのか。
現実的な方法を考え始めていました。
ただ、どれも簡単ではありません。
父は昔から、人に指図されることを嫌います。
真正面から取り上げようとすれば激しく反発するでしょう。
だからこそ難しいのです。
私と母は正解のない話を繰り返していました。
その矢先だった
そんなやり取りをしていた矢先でした。
今度は別の問題が起きました。
父は毎日、自宅で血圧を測定しています。
その日もいつも通り測定していたそうです。
ところが脈拍が40を下回っていました。
ペースメーカーの設定は60です。
どう考えてもおかしい数字でした。
本人は何も感じていなかった
もっと驚いたことがあります。
父本人は何も感じていなかったのです。
苦しくない。
息切れもしない。
めまいもない。
ふらつきもない。
本人は普段通りだと言います。
私は以前から、
「父は自分の状態を客観的に把握できていない」
と感じていました。
今回もまさにそうでした。
数値は異常です。
でも本人は平気だと言う。
私は背筋が寒くなりました。
もし毎日血圧を測っていなかったら。
もし数字を確認していなかったら。
父はそのまま平然と車を運転していたのではないかと思ったのです。
ペースメーカーがうまく作動していなかった
病院へ連絡し、すぐに受診しました。
検査の結果、ペースメーカーが正常に作動していないことが分かりました。
その後、入院。
再手術が必要とのことでした。
手術は約1週間後。
つい先日退院したばかりなのに、再び病院へ戻ることになりました。
普通なら、
「大変だ」
「心配だ」
そう思う場面なのかもしれません。
正直に言う
ここから先は、本音です。
正直に言うと、私は父の身体をそれほど心配していませんでした。
冷たい娘だと思われるかもしれません。
でも事実です。
父は80代です。
脳梗塞も経験しました。
心不全もあります。
人はいつか死にます。
それが80代なら、決して不自然なことではありません。
もちろん元気でいてほしい気持ちはあります。
でも、だからといって何としても長生きしてほしいという気持ちとは少し違います。
私が怖いのは父が死ぬことではない
私が本当に怖いのは別のことです。
父が誰かを巻き込むことです。
父自身が亡くなることよりも、
父が加害者になることの方が怖い。
私はずっとそう思っています。
もし父が一人で事故を起こし、自分だけが怪我をするなら、それは父自身が選んだ結果なのかもしれません。
でも現実にはそうはいきません。
道路には歩行者がいます。
子どもがいます。
自転車もいます。
他のドライバーもいます。
何の関係もない人たちがいます。
私はそちらの方がずっと怖いのです。
入院が決まって、私はほっとした
だから再入院が決まった時。
私は安心してしまいました。
心配より先に。
安堵がありました。
少なくとも運転はできない。
少なくとも今は誰かを巻き込む事故の心配をしなくて済む。
そう思ったのです。
母も同じだったと思います。
家族として正しい感情なのかは分かりません。
でもそれが私たちの本音でした。
私は父を助けたいわけではないのかもしれない
最近、自分でも考えます。
私は父を助けたいのだろうか。
父に長生きしてほしいのだろうか。
正直よく分かりません。
ただ一つ言えるのは、
事故が起きた後で後悔したくない。
それだけです。
父が運転を続けることに危機感を持っている。
それを知りながら何もしなかった自分になりたくない。
だから動いている。
だから伝えている。
父のためなのか。
自分のためなのか。
再び与えられた時間
結果として父は再入院することになりました。
運転問題も先送りになりました。
でも今回の入院は、私たち家族にとって少しだけ時間を与えてくれたようにも感じています。
この時間を使って、次に何ができるのか。
父は変わるのか。
それとも変わらないのか。
まだ分かりません。
ただ一つ言えるのは、この問題は長く続きそうだということです。

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